日本の気候と建築~調湿材~
2022/06/10
日本は温帯のうち「温暖湿潤気候」と呼ばれる湿気の多い気候・風土となります。
2022年6月4日(水)現在まさに梅雨入りしたばかりで、止んでは降り降っては止みを繰り返す毎日です。
そして、梅雨が明けたら明けたで、あの蒸し暑い夏がやってくる。
春や秋では天気が変わりやすく晴れが続くことも少ないし、好天が続く冬は寒く乾燥しています。
総務省統計局発表の「統計でみる都道府県のすがた」によると、
日本の平均降水日数は2006年及び2012年で123日、2019年で116日となり、
だいたい年間32~33%程度雨が降る事になります。つまり、10日のうち3日くらいは雨が降るという事になりますね。
半分も降らないのだから、バランス的には良いのかもしれませんが、
夏の蒸し暑さと、冬の寒くて乾いた空気にはそれぞれに思うところがあるはずです。
こうした風土に暮らす上で、「調湿機能」を有する建材について関心が寄せられるのも無理ない事です。
という事で、今回は調湿効果のある建材について取り上げます。
調湿とは何か
調湿は「湿度を調整する」という意味です。
湿気が多い時には吸収し、乾燥していれば内部に含んでいた水分を吐き出し、
空気中の湿度を調整し、日々をより快適にしてくれます。
梅雨そして夏の時期は湿気に加え、気温も高くなるので、カビが生えやすくなります。
食べ残した食材を放置しようものなら、数日でカビが生え、腐ってしまいますし、
家具の裏側や滅多に開け閉めしない収納内も油断するとヤバいですよね。
目に見えない雑菌についても同様です。
反対に、冬場の乾燥はそれはそれでわずらわしいものがあります。
寝起きに喉がガラガラしたり、乾燥肌やドライアイで困らされる人も多いのでは?
ですので、快適に暮らすために、わが国では調湿効果のある建材が至る所に使われてきました。
木造軸組み構法(もくぞうじくぐみこうほう)
木造軸組み構法は日本古来の建築法で、在来工法とも呼ばれます。
柱のように垂直方向で用いる材、梁のように水平方向で用いる材を組み合わせ、
筋交いや火打ちのような斜め材で補強する。
つまり縦、横、斜めで骨格を作り、次いで壁・床・天井などを肉付けした構造なのです。
この骨格部分に長く用いられてきたのが木材です。そして、この木材には多少の調湿効果があります。
調湿効果の代表とはなり得ない程度ですが、それでも至る所で用いられれば効果は増します。
室内を見渡せば、柱、敷居、鴨井、天井、窓枠、周り縁、上がり框(かまち)などの名のもとに木材が使われてきました。
木材は家の内外問わず使われる部位によって様々に名称を変え、逆にそれほどに親しまれてきたのです。
さらに、襖、障子の枠だって木材ですし、扉やイス、机など建具・家具も木製だったわけですからね。
一つ一つは強烈な調湿効果がなくとも集まればそれなりとなったわけです。
壁の調湿効果
壁は調湿効果を最も発揮する部位です。
土壁は古くから日本の家屋に用いられてきました。
小舞(こまい)とよばれる竹や木を縦横に編んだ下地を用い、土を塗り重ねて左官仕上げします。
小舞は木舞とも書くのですが、現在で言うところの「ラス網」に当たりますね。
漆喰や珪藻土、砂壁、大津壁は中塗りまでは一般的な土壁と同じ、仕上げにこれらを用いています。
小舞→荒壁→中塗り→上塗り
という工程となり、この上塗りの段階で漆喰や珪藻土などを使うという事です。
ちなみに、荒壁(あらかべ)は小舞に最初に塗る「下塗り」にあたるもので、
ワラと水を練り混ぜた土を使い、その荒壁の不陸を調整しながら中塗り土を塗ります。
こうした土壁が古来より日本家屋に用いられ、調湿効果を発揮するとともに、
断熱機能や防火機能、そして脱臭機能を発揮し、室内環境を整えたのです。
ではどうしてこれだけの効果がありながら、現在ではほとんど見られなくなったのかと言えば、
やなり強度の問題でしょう。
特に近年の大地震を経験した結果、建築基準法で求める建物の強度は増しています。
在来工法は骨組みの強度で建物の荷重を支え、垂直及び水平荷重に耐える構造なのですが、
それに接合金具を使い合わせる事でより強固な骨組みとし、
さらに「耐力壁」を要所に配すことで、より倒壊の危険の少ない住宅づくりを目指す方向性が見られます。
耐力壁(たいりょくへき・たいりょくかべ)と言うのは地震や強風などの水平に働く力に耐える力を持つ壁の事で、
耐震壁とほぼ同じ意味と考えていいでしょう。
建築基準法ではこの耐力壁の強さを「壁倍率」で評価しており、
壁倍率の数値が大きいほどより耐震性の高い壁となります。
この壁倍率において土壁はこれまで0.5倍という最低ランクの評価しか受けてきませんでした。
「土塗壁または木ずりその他、これに類するものを柱及び間柱の片面に打ち付けた壁を設けた軸組み」の壁倍率が0.5と定められます。
ここで木ずりを両面に打ち付ける、あるいは厚さ1.5cm以上幅9cm以上の木材を筋交いに用いれば壁倍率1となります。
上記筋交いの厚さを3cm以上とすれば(幅は9cmで同じ)壁倍率1.5、4.5cm以上で壁倍率2、9cm角以上で壁倍率3となり、
さらにたすき掛け(バッテンに筋交いを入れる)だと上記1~3の数字が倍になります。(2~6倍となる)
こうしてみると土壁に対する強度や耐震性を不安に思う人もいたでしょうし、
家屋が西洋風に変わる過程で、和室自体が好まれなくなったことも相まって使われる機会が減っていったのでしょう。
ただし、割と最近の建築基準法改正で、土壁の壁倍率について施工法によっては1.5倍とされるようになったようです。
とは言え、建物の強度に重点を置く方は、
例えば強度のある耐力壁に珪藻土などを仕上げ材として用いれば調湿効果の恩恵を受けられますよね。
洋室だとビニールクロスなどで仕上げますが、
アクセントとしてある一面の仕上げに用いるなどすれば見た目的にもお洒落にできます。
建具
襖や障子といった建具は、部屋と部屋を仕切る「間仕切り」の役割を果たすとともに、
用いる和紙が調湿や断熱効果を発揮してきました。
和紙は長い繊維が絡み合って出来たもので、以下のような効果があります。
- 和紙を通った光は拡散され、光が透過する際に和紙の繊維で乱反射がおこるため、
紫外線を90%、赤外線を約80%カットするとされ(断熱効果)、室内にはやわらかな光が差し込みます。 - 強靭な繊維を持つ和紙には、1000年以上の保存に耐えるほどの耐久性が期待できる
- 和紙に含まれる繊維には目に見えない小さな穴がたくさんあることにより、水分を吸着する性質がある
- さらに空気中の有害物質を吸着する効果もあると言われている
デメリットとしては
- 割とコストがかかる
- 紙である以上燃えやすい
- 物理的衝撃で破れる
現在は和紙以外の物も用いられますが、かつての襖や障子がこうした和紙の特性による調湿効果を有していたのは確かなのです。
尚、畳にも調湿効果がある事が知られています。
調湿と換気
ここまで調湿効果のある建材について書いてきましたが、
どれほど優れた調湿効果を持っていても、その能力は無限ではありません。
湿気を吸収し続ければいずれ飽和状態になってしまい、それ以上は吸収できません。
反対に乾燥しきってしまえば、吐き出す湿気もなくなります。
室内環境を整えるうえで基本となるのはあくまで通気、換気です。
日に何度か外の新鮮な空気を取り入れてこそ、こうした調湿材が能力を発揮します。
室内環境を整えるためにも、日々の通気、換気を心がけましょう!