日本の気候と建築~雨仕舞(あまじまい)~
2022/06/05
私達が住む日本は気温の年較差が大きく、夏は多雨で冬は乾燥する「温暖湿潤気候」です。
四季のある風景は毎年毎年を変化で満たし、この国で暮らす楽しみの一つだと思います。
ところが、建築物にとっては割と大変な環境である事も確かです。
建物を傷ませるものの代表は雨、風、太陽です。
雨が降り湿気の多い状態に高温が加わると有機物資材の天敵であるカビ、雑菌、苔が繁殖しますし、
照りつける太陽は生命の恵みであるのと同時に日射によって多くの物質が劣化していきます。
実際夏と冬の温度差は物質を伸縮させ塗膜の劣化を早めます。
そうして台風に代表される強風は時に物理的威力を発揮して建材を破損させます。
そのため日本では古来よりこうした風土に根差した建築様式が発達してきました。
今回取り上げる雨仕舞(あまじまい)という言葉はまさに雨と共に暮らす先人達が培ってきた建築技術なのです。
雨仕舞と防水
雨仕舞とは雨水が浸入するのを防ぐための納まり、施行の事と説明されます。
これだと言葉足らずなので付け足すと、
水が重力によって上から下に落ちる、流れ下るという性質を利用し、
- 第一に出来る限り雨水を建物に当たらせない、内部に入り込ませない
- 第二に雨水が入り込んでも抜け出す構造とし、長く留まらせない
- 第三に万一に備え防水紙を貼り、水の浸入に備えるが、水が排水するまでの経路を確保する納まり
という一連の納まりにする事です。
よく比較される「防水」との違いとともにさらに説明します。
防水とは水を防ぐこと。蟻の入り込む隙間一つ作らず、水密性を確保する事です。
アスファルト、ウレタン、シート、FRPなど素材の違いによる施工法の違いはあれ、根っこの部分は同じです。
雨仕舞はこれに比べれば防水ほどには水密性にこだわりません。
水密性が分かりずらい方は「気密性」を思い浮かべて下さい。概念的には同じです。
空気が入り込まず、抜け出ない密封された状態。これが気密性。
水に置きかえて水が入り込みもせず、抜け出しもしない状態が水密性です。
建物の最上部に屋根を乗せ、雨除けの傘とします。
屋根が受けた雨水は雨どいが受け、壁を伝う事なく排水される。
これだけで大部分の雨が建物に触れずに済みますね。
水が触れないという一点のみでどれほど建物の劣化を防げる事か。
窓や扉などの開口部の上に庇を設け、これまた傘を作る。
躯体から張り出し、傾斜をつけた先端から地面に落下させ、壁を伝う事なく排水する。
これによって窓サッシ廻りのトラブルが大きく抑えられ、弱い雨程度なら通風も確保でき、
おまけに庇の下方わりと広範囲に雨が当たらないと言う効果も享受できる。
古い家屋を見ると軒や庇が大きく張り出していて、よほどの雨風でもなければ外壁に雨が当たらないせいか、
かなりの築年数でも驚くほど傷んでいないものなのです。
異なる構造物が出会う接合部分の事を「取り合い」と言います。
こうした取り合いでは互いに上下に重ね合わせ、折り曲げ、水が内部に入る前に流れ落ちる構造とさせます。
取り合い部分を金属の溶接のように完全に一体化させるならば、防水性は万全でしょう。
しかし、異なる素材同士だとそうはいきません。
ですから、仕上げ表面ではできる限り雨が入り込まないようにしつつ、大部分の水が流れ落ち、その場から速やかに離脱するよう工夫する。
そして、その内部に少量の水が入り込んでも大丈夫なように防水紙を張り付けるなどして水の浸入に備える。
これは建物の傘である屋根についても同じこと。
例えばコロニアル葺の屋根は一枚物の材ではなく、幅と奥行きが決まったたくさんの部材を並べ、重ね合わせたものですから、
継ぎ目や重なり部分から裏側に水が入り込むことがあります。
けれども水下から張り重ねていく雨仕舞によって、長く屋根材の裏側に水がとどまることなく流れ落ちるので、
問題なく排水されていくのです。
さらに、その下にはルーフィングが張り付けてあるので、万一水が入り込んでも簡単には雨漏りしないわけなのです。
屋根の天辺では棟包で雨の入り口を塞ぎ、四方、左右、片側に伸びる屋根の合わせ目にも板金処理をしてフタをする。
屋根の構造は瓦にしろシングル屋根にしろ雨仕舞がカギを握るのです。
防水と比べると水が入り込む余地のある雨仕舞を少し不安に思うかもしれません。
けれども雨仕舞は水の性質を理解した上で作り上げる構造です。
構造的に入りにくく、抜け落ち、排水へと至るため、部材が劣化しても効果は続きます。
この点防水では部材の劣化が即漏水に繋がる可能性があるのと違います。
雨仕舞がしっかり施されていれば、部材が劣化して多少内部に入り込みやすくなっても、
水の滞在が短いため被害が出にくい。
長い年月機能する事が雨仕舞の特徴であり、長所なのです。